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山姥

【コラム】シロウト徒然草

葵上はシテじゃないの?


能「葵上」を初めてみる時、こう思った人は多いのではないでしょうか?シテではないどころか、葵上を演じる人がいません。


ハムレット、ハリーポッターなど、芝居のタイトルロールは主役であることが多いです。能「船弁慶」や歌舞伎「義経千本桜」では違いますが、それらでも名前がタイトルになっている人物は主要な役として登場します。


歌舞伎は一幕だけ上演されることがあるため「義経千本桜 吉野山」だと義経は登場せず、「ゴドーを待ちながら」ではタイトルの人物はあらわれませんが、葵上はそれらとも異なります。葵上は舞台上に「いる」のです。舞台上にある小袖が葵上ということになっています。


モノを人に見立てるというのは現代の演劇でも用いられている方法で、野田秀樹の「THE BEE」では円柱に野球帽をかぶせたものが子どもになっている場面がありました。

葵上が生身の人でないことは、六条御息所にフォーカスするという効果があると思いますが、私はそれ以外の意味もあるように思います。


葵上は源氏の正妻ではあるものの仲がいいとはいえず、六条御息所の葵上に対する思いとしては(正妻という)とだえることのない関係であることに向けられているように思えます。恨みの直接の原因ともいえる車争いについても、葵上が指示したわけでもなく、お忍びで出かけている六条御息所の立場が弱いということなど周りの状況が大きく影響しています。六条御息所の恨みは「生身の」葵上よりも立場などの「衣」に向かっているように思うのです。【山姥】

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